NNR「キスから始まる物語」小説コンテスト参加作品

         *41



 
目を閉じたり、そっと開けたりする。
 
 
なだらかに流れる小川。
 
若い緑色をした、近頃でてきたばっかりの雑草達。
 
所々に咲く黄色いたんぽぽ。
 
鳥の囀りに合わせるように蝶が舞う。
 
 
「ぷはぁ。いい天気。」
 
 
ここはとっておきの場所なの。
 
 
 
 
今、俺はロッカーの前で座り込んでいる。
始業式を終えた、誰も居ないロッカースペース。
どうしてこうなったのか。
理解するのに時間がかかりそうだ。
 
 
ただ一つ、分かることは、
 
今さっき、見知らぬ女と、接吻してしまったかもしれないということ。
 
突然で、あまりにも不可思議な出来事。
これに至るまでに、少し時間を戻す。
 
 
「おい。今年も一緒だな。」
「はぁ・・・。最後まで一緒なんてほんと俺ついてねぇ。」
 
高校最後の年、またもや俺は恭平と同じクラスになってしまった。
 
恭平とは高校で知り合ったんだけど、部活も一緒だったし、
それに、今年で3年連続クラスメートだ。
 
別に気ぃ合うし、嫌いって訳じゃないんだけど
 
こいつは好奇心の塊みたいなもんで、
一緒にいるとたまに変なことに巻き込まれるんだよなぁ・・・。
 
とかなんとか言いつつ、きっと行動を共にするだろうと思っていたりする。
 
よく考えたら、この時そう思っていなかったら、あんな過ちをすることもなかったんだな。
 
 
「おっ!やったぁー姫村と同じクラスじゃん♪」
「お前、まだ狙ってたのか?」
「だってよぉーいつ見てもカワイイんだぜ?ほんとオレ泣かせだよなぁー。」
「その目のせいでお前3回も彼女と駄目になってんの。気づかない?」
 
姫村は今時の世間から見たらカワイイ子かもしれないけど、俺はあんなうるさくてケバいギャル女は全然好きじゃない。
恭平はそんな姫野に気に入られようと無理してギャル男になろうと頑張ってる。バカだろ。
 
「澄ましやがってよォ。洋介だって和香ちゃんのこと好きなんだろー?」
「うっせぇよ。」
 
恭平の言ってる竹内和香は確かに気になってたんだけど、
大学に彼氏がいるらしいと聞いて諦めた。
まぁ噂なんだけど。なんかめんどいし。
 
「あいつは無理。もう諦めた。」
「んな彼氏がなんだよー?男ならそいつから和香ちゃん奪っ
「お前じゃないんだから。んなことしねぇっての。アホ。」
 
 
始業式が終わって、新しい教室に入った。
 
ったく長ったらしい校長の話聞かされた上に、今年も担任が紀田かよ。
あいつ学園ドラマ仕込みのめんどい性格してんだよな。やってらんねぇ・・・。
 
ため息をついて、机にうつ伏せになる。
 
「じゃあもう1人・・・よし、川原。お前やれ。」
 
はあ?
 
「なんだよ。俺手ぇ挙げてませんけど。」
 
馴れない敬語。恭平が笑っているのは見ないでもわかる。
 
「お前最後ぐらい委員会入れ。クラスに貢献だ。」
「いいです。他にやらせてください。」
「他がいないから頼んでるんだ。普段あまりいい風に見られないんだから入って根性たたき直せ。」
 
その命令口調が頼んでる人の態度か。クソ教師。
 
これ以上言い合うのも疲れるし、入ってバックれりゃいいや。あぁめんどい。
 
 
そんなこんなで、俺はクラスの美化委員になった。
 
 
俺が心を安らげる時間は無に等しかった。
 
「ウケたし。」
 
今日の予定が終わって、皆は鞄を持って帰っていく。
そんな中ニヤニヤ笑いながら近づいてくる恭平。
 
「・・・うるせぇな。いちいち。」
「お前クラスん中で一番美化委員の似合わねぇ奴だな。」
 
確かに。俺はとにかく楽をしたいという奴だ。
まさか高校に入って生まれてはじめての委員会に入るとは思わなかった。
 
「あ、そうだ洋介。ちょっとこの後付き合えよ。」
 
こういう時は絶対になんかあるんだよ・・・。
 
「・・・遠慮する。めんどい。」
「あーそんなこと言ってると和香ちゃんに・・・「わかった。」
 
俺の周りには面倒な奴しかいないのか?
 
 
 
 
「今年もかなぁ・・・。うーん。」
 
高校3年生にもなって、始業式に堂々遅刻。
あ、もう式終わってるか。
 
皆が階段からぞろぞろ降りてきてすれ違う。
 
逆方向行ってるのに、皆みぃのことに気づいてないみたい。
 
皆自分のことで精一杯で
周りの景色を見ているようで見ていない。
 
皆にとってみぃは景色だから、気づかなくて当たり前かな。
別に悲しい訳じゃない。
みぃは、景色である自分が好きなんだもん。
 
 
今年も担任は紀田先生みたい。
怒られるだろうけど、職員室に行こう。
もう慣れっこになりそう。先生の説教。
 
 
「やっぱり。もうやだなぁ。」
 
みぃは今自分のロッカーの前にいる。
一番いやだった瞬間。
 
ロッカーについてる札に「*41」と刻んであった。
 
みぃの本名は渡辺かすみ。
ちっちゃい頃から自分のことを「みぃ」って言ってたから今でも言ってる。
渡辺だから、いっつも番号は一番最後。
 
何故かわかんないけど、毎年番号の前に*マークが付いてる。
まぁ小さい花みたいでみぃは好きだけど。
 
問題は番号。
 
この学校は一クラス40人程度だから、みぃは絶対番号に4がある。
これがすっごく嫌なの。
 
みぃは4っていう数字が一番嫌い。
だって4て死って意味で病院でも除かれる不吉な数字でしょ。
それが毎年ロッカーに貼り付いてるんだもん。
名前書くときもこの数字を書かなきゃいけない。
しかもみぃのテストの成績はいつも下から4番目。
 
毎朝ロッカーの前に立つたび、
この数字が目に入って
呪われてるような気がして、憂鬱になる。
 
あ、今年は41番だぁ。
 
去年は40番だった。
例え1増えたとしても、みぃの気持ちは晴れない。
 
しかも、このロッカー中棚ないし。機能悪すぎ。
 
・・・こんなにロッカー相手に不機嫌になって。みぃはまだ子供だな。
さっさと先生んとこ行って明日の予定聞いて川原に行こう♪
 
と、バッとロッカーの扉を開けた瞬間
 
 
「うわっ!」
「へっ?!」
 
 
みぃの上から人がのしかかってきた。
 
 
そのまま倒れこんで、
みぃは少し頭を打った。
後ろの方から痛みが・・・。
 
それよりも、大変なことが起きたことに気づいた。
 
思わず瞑った目を開けると、
2・3センチ前に男の人の顔。
 
 
それでもって、
 
唇が生暖かかった。
 
 
「?!!」
 
もう理性が真っ白になって、
頭はクラクラしてて、
 
その人を勢いよく押しのけて
川原へ走った。
 
 
 
 
「はぁ?・・・なんだよ?一体・・・。」
 
何がなんだかさっぱりわからない。
急すぎて頭がパンクした俺は、とりあえずその場で胡坐をかいた。
 
恭平が姫村と話したいっていって付き添うことになって、
校門で待ってたけど全然来ないから恭平が探しにいって、
俺はここに置いていかれて、
眠いと思って、
ロッカーの中なら暗いしいいなぁと思って、
俺のロッカー去年の先輩のせいで凹んでるから、
丁度何も入ってなかった恭平のロッカーに入って寝てた。
 
んで、やっと寝付けそうだったとき、
いきなりドアが開いて、そこに人が居て、
 
ドアに頭をつけて寝てた俺は、
そいつの上に被さるように倒れた。
 
結論。
 
なんであいつはこのロッカーを開けたんだ?
もし間違えて開けたんなら、あいつのせいだ。
 
「ちくしょぉ・・・今度会ったらシメてやる。」
 
 
しばらくして、やっと恭平が戻ってきた。
 
お目当ての姫村はすでに帰っていたようだ。
 
「何お前そんなとこで座り込んでんだよ?」
恭平が一緒になって向き合って胡坐を掻く。
 
今さっきあったことを、大事な部分だけ話した。
ようは、「寝てたら人が開けてきて一緒に倒れた。」しか言ってない。
 
そこで、俺は重大な事実を知る。
 
「ここ、俺のロッカーじゃねぇよ?」
 
俺が指差したロッカーを見て恭平はそう言った。
一瞬、時間が止まった感じがした。
 
「俺今年は後ろから2番目。」
「え。」
鈍い声しか出ない。
 
恭平の苗字は若槻。
恭平より後ろの人が居るなんて思ってもいなかった。
 
「今日来てなかったからな。渡辺かすみって奴。あのボサボサショートのちびっこい奴だよ。」
「かすみって・・・女子?」
「男子なわけないだろ。」
 
「あっ。」
 
走っていった後姿を思い出した。
確かにちっちゃくてショートだったような。
 
それより。
 
俺、あいつと・・・キスしちまったかもしんねぇ。
 
多分だけど。あの逃げていく雰囲気、いかにもって感じだった・・・。
あぁーめんどくさい!いや、すごく厄介なことになった。
頭ん中ぐるぐるして、恭平が何だ?何だ?と言ってるのを無視し続けた。
 
 
これが、突拍子もなくて衝撃的な、俺たちの出会いだった。
 
 
 
 
次の日も昨日に負けないぐらいいい天気になった。
 
昨日はびっくりして、先生に会わずに川原に走ってきちゃった。
泣いちゃったよ。
 
だって、あれが、みぃのファーストキスだったんだもん・・・。
 
でも、後悔してもしょうがないよね。
もう過ぎちゃったことだし・・・。
学校で会ったら謝ってもらおう。それでいいや。
 
「確か・・・えっと・・・よ、ヨースケだっけ?」
去年、隣のクラスでギャーギャー騒いでた若槻くんが年中口にしてた。
ヨースケは髪も茶色くて、背も高くて、今時の男の子って感じの人。
もちろん、みぃはしゃべったこともなかったし、関わることもないだろうと思ってた。
・・・なんて話しかけたらいいんだろ・・・。
 
「みぃ。今日は来たのね。」
「忍ちゃぁーん。」
 
校門のところで、丁度来合わせた忍ちゃんと一緒になった。
 
忍ちゃんは、みぃの唯一のお友達。
皆、みぃのことを変な子だって見てるから、
その分、みぃは忍ちゃんが大好き。
 
早速、昨日あったことを相談した。
「みぃ・・・あたしがいない間に汚されちゃったのね・・・。」
「それはちょっと言い過ぎだよ。忍ちゃん。」
「あら、そんなに嫌じゃないの?」
意地悪そうな笑みを浮かべて聞いてくる。
もう。そんなんじゃないよ。
「ショックだったけど、あれは事故だったし。仕方ないもん。謝ってくれればいいよ。」
「そう。みぃらしい考えね。」
ふふふって笑って、髪の毛をくしゃっとされて、なんだか喜んじゃうみぃでした。
 
 
 
 
「おい。今入ってきたのが渡辺。」
 
朝、紀田が来る前に渡辺かすみは来た。
恭平が言ってた通り、肩までのボサボサショートのちっちゃい奴だった。
それに、ひよこみたいな黄色いパーカに、スカートから出てる黒い膝丈のレギンス。
校則に悪い例として載りそうなぐらい反した格好。
俺から見たこいつの第一印象は、幼稚園だった。
 
「お前、とりあえず昨日のこと謝っとけよ。俺が馬鹿でしたって。」
「うっせぇ。」
「ほんとのことだろ。ばぁか。」
 
恭平にはキスのことは言ってない。
言ったらどうなるか、俺の第6感が気づいてくれていた。
 
「HRが終わったら言いに行けよ。」
「・・・わぁったよ。めんどくせぇ。」
 
めんどくせぇ、とも言ってられない。
今回のことは全面的に俺のせいだ。
だるいけど、やるしかない。
 
 
「よーし。じゃぁ本鈴がなる前には席着いとけよー。」
 
朝から教室で叫んでる紀田。うぜぇな。いい加減。
しばらく眼とばしてると、
「おい。川原。ちょっと来い。」
目が合って、嫌悪感たっぷりの眼で睨み返してきた紀田が、廊下に来いと手招きをした。
 
「美化委員のことなんだが。」
「あぁ?俺悪いけどやる気ねぇよ?」
「違う。実はもう1人いるんだ。うちのクラスに。」
俺に向けられていた視線を俺の後ろに移した。
その視線の先を見る。
 
ぺたぺたとペンギンみてぇに歩いてきた。
例の幼稚園児だ。
 
「昨日居なかったが、こいつも美化委員だ。2人で協力して頑張ってくれ。」
 
余計な事してくれんだな、紀田。
おかげであっちが硬直してんじゃん。
空気が重い。だりぃ・・・。
 
紀田も行ったし、さっさと謝っとくか。
 
「あ、昨日はどーもすんません。急だったし。うん。」
「・・・へ?」
あほっぽい顔であほっぽい声を出してる。
・・・俺こういう奴苦手だ。
「それと、俺委員やらねぇから。1人で頑張って。」
用件だけ言って、教室に戻ろうとした時、
カーディガンをぐしゃっと捕まれて引っ張られた。
 
「最低。」
ぱっちりした目に頑張って力を入れて睨んでそう言われた。
「は?何お前。」
「ヨースケって、ヨースケってそういう奴だったんだ?!」
意味わかんねぇし。
そういう奴って、親しくもないのに何言ってんだ?
てか、何で名前で呼んでんだよこいつ。馴れ馴れしい。
 
しばらく何も言わないで凝視してると、
睨んでいたまん丸の目が潤んできてるのに気づいた。
 
「もういい!」
もうすぐ授業が始まろうというのに、渡辺は教室に入らず廊下を走っていった。
あいつの掴んでた部分のシワを伸ばそうと触ってみたら、少し湿っていた。
 
 
 
 
ヨースケの態度に腹が立って、
そのまま教室に戻りたくないから屋上まで走ってきた。
授業さぼっちゃった。あーぁ。
 
というか、何なのあの態度?!
「きのーはどーもすんませーん。」だって。
すっごく気だるい言い方。
あれが謝る態度なの?
謝ってるつもりいなの?
信じらんない!もーっ!
 
不覚にも流しそうになった涙を腕で拭う。
とにかくイライラしてたから、その場に寝転んで空を見た。
かっかしてた感情がすーっと治まっていく。
 
・・・ヨースケって
いっつもふらふらぁっとしてて
いっつも眠そうな目してた。
だから、きっと穏やかな人だと思ってたのに。
あんな無関心で冷たい人だったんだぁ・・・。
なんか、期待してた訳でもないのにため息でちゃうよ。
 
 
気がついたら、太陽が真上に昇ってみぃを照らしていた。
2限目ぐらいまで過ぎちゃったかな?
もういいや、教室戻って鞄持って帰ろ・・・。
 
上体を起こして、うーんと伸びをしたら、
屋上の出入り口のドアがガチャっと開いた。
 
出てきたのは、若槻くんとヨースケ。
 
さすがに気まずくて、さっと逃げ腰になったけどもう遅かった。
 
「あ。」
 
目が合っちゃった。
 
一気に目つきが変わる。
みぃの事が嫌い、ってそれだけでも分かった。
 
「あ、俺姫村んとこ行ってくるわ。」
場違いだと察した若槻くんがそそくさと屋上を後にした。
ここに居るのは、みぃと、ヨースケだけ。
 
「お前、一体何?」
更に冷たさの増した目で言う。
嫌われるのは構わないけど、せめて昨日のことちゃんと謝ってもらいたい!
 
「ちゃ、ちゃんと謝ってよ。昨日のこと!」
「謝ったじゃん。」
「違うの!誠意がこもってなかったし、それに・・・」
ふいっと顔を逸らす。
 
うー・・・こんなこと恥ずかしくて言いたくないけど・・・。
 
「昨日の、みぃのファーストキスだった!」
 
体から顔に向かって熱がカァーっと上っていく感じがした。
なんかもう泣きそうになってる。
 
「・・・悪かったよ。」
向き直ってみると、さっきまでの視線はなくなっていて、
右手で頭を掻いて、バツの悪そうな顔をしたヨースケがいた。
相変わらず面倒だって感じだけど、今度はさっきと違う。
 
「・・・だから悪かったって!」
「あ、うん・・・。」
 
びっくりしてひるんじゃった。
なんだ・・・そっか。なんだぁ・・・。
ごめんね。みぃの見間違いだね。
 
「・・・ほんとはいい人なんじゃん。ヨースケ。」
「は?」
 
また気だるい返事をするヨースケ。
こんなんでも、実は根はいい奴なんだ。
ちょっとカッコつけてるだけなんだね。
なんか安心したよ。
 
「お前さ、なんで名前で呼ぶの?」
「へ?だって・・・苗字知らないもん。」
これはホントのこと。
若槻くんは有名だけど、ヨースケはヨースケって呼ばれてるのしか知らないし・・・。
「あそ。てかさ、お前馴れ馴れしい。やめてくんない?」
 
・・・ひどいなぁ。別にそんなつもりはないんだけど。
 
「これがみぃだもん。」
「・・・お前自分のことmeって言ってんの?」
「違ーう!かすみだからみぃなの!」
「意味わかんね。てかキモいし。」
「何とでも言ってよ!みぃはみぃだもん!」
 
キモいとか、変とか、
みぃはもう言われ慣れてるから、
全然へっちゃらなんだな。
 
「まぁ。むぅ。もぉ。」
「だからみぃだって!」
 
 
 
 
進級して4ヶ月が経った夏休み。
 
俺は恭平に誘われて合コンに来ている。
場所は駅周辺のカラオケ。メンバーには竹内も姫村もいる。
姫村に気に入られようと、アップテンポの曲をその歌手になりきって歌う恭平。
なんかもう聞いててストレスがんがん溜まってきたから、
ニコチン補給に外に出た。
裏の駐車場なら、私服だし、余裕。
 
車止めのブロックに座って吹かす。
 
吸い始めたのは高校に入ってすぐだ。
恭平に勧められて吸ったらやめらんなくなっちまった。
 
「未成年は煙草吸っちゃいけないんですよー?」
 
からかうような声で笑いを交えながら言っているのは竹内だった。
 
「洋介くんが下に下りたから付いてきちゃったぁ。」
呂律が回ってない上にへらへら笑っている。
「お前飲んでるだろ。」
「えー?飲んでないよぉ。ウーロン茶しかのんれないー!おいしいウーロンちゃぁ。」
ウーロンハイか。
俺も少し飲んだけど、割と強い方だから全然平気。
女子って、案外弱いもんなんだな。
お袋は強い人だから、女ってそういうもんだと思ってたんだけど。
 
「たばこの匂いっていいよねぇ♪」
ニヤニヤ笑いながら、俺に寄り添うように竹内は座った。
「男らしくて好きー。」
俺の腕を掴んで鼻をくっつけて嗅ぐ素振りを見せる。
 
これは誘ってるとしか思えねぇ。
勘付きながらも、気づかない振りをして吸い続けた。
 
「ねぇ・・・洋介くん彼女いる?」
ついに前触れの言葉が出た。
嘘ついても意味ないし、正直に答える。
「・・・いねぇ。」
俺の言葉を聞いて、竹内は俺の左腕に自分の腕を絡めた。
 
「じゃぁさ・・・、あたしと付き合おうよ。」
 
俺が竹内の目を見たときには、すでに甘い視線を向けられていた。
そして、どちらからともなく、口付けを交わす。
 
 
こうして、俺はこの夏、竹内の彼氏になった。
めんどくさがりな俺は、恭平とかに誘われる時ぐらいしかあいつと遊ばなかった。
一応気になってたし、嬉しいっちゃ嬉しいんだけど。
いざ彼女にしてみると、もう満足、みたいな感じだった。
毎回変わらないキャラに、休みの期間中だけで慣れ、飽きてしまった。
俺は、長期の付き合いには向かないのかもしれない。
 
 
渡辺とは、夏休み前はちょこちょこしゃべったりしてた。
何しろ、からかうと面白い。
いつも小学生みたいにむきになって反抗してくる。
最初、恭平はあんまり近づこうとしなかったんだけど、だんだん一緒になってからかうようになった。
 
あいつも美化委員な訳だけど、
「委員会になったのに、やらないなんて腰抜けだ。」
なんて調子こいた事をあいつに言われたから、
言われた仕事を渋々こなしている。
俺とあいつとは、委員会で繋がってるだけの関係だった。
 
 
 
暑い夏はあっという間に過ぎて、秋真っ盛りの10月。
 
11月の文化祭で、みぃ達美化委員は教室調査の結果を掲示することになった。
おかげでこれから1ヶ月は毎日全クラスに回らなきゃいけなくなっちゃった。
 
しかも、クラスずつでペアになって回るから、ヨースケと一緒に回るんだよね。
 
あの一件で、気まずい関係になるかと思ったけど、
ヨースケはみぃを子ども扱いしてからかってるからそんな風にはならなかった。
別に、からかわれて嬉しい訳じゃないけど。
みぃに関わってくる人って少ないから、なんか不思議な気分になるの。
 
「ほら!ヨースケ!今日はみぃ達の当番なんだから!」
「あぁ?・・・だりぃなぁ。」
「だーかーら!ダルイ≠ヘ禁止!」
「わぁったよ。」
ぶつくさ言いながらも、ちゃんとやってくれるヨースケ。
やっぱりいい奴なんだなぁ。
 
あ、そうだった・・・。
うん。大丈夫。
ちゃんと守ってるから。
 
のろのろ歩いてくるヨースケに合わせるように歩いた。
 
途中で若槻くんがやってきた。
なんか話があったみたい。
ちょこちょこっと話しただけで行っちゃった。
 
「おい、まぁ。」
「みぃ!」
「俺今日帰っていい?」
「へ?うーん、急用?」
すると少し沈黙して、
「竹内が待ってる。」
とボソッと言った。
「そっか。わかったよ。バイバイ。」
みぃが手を振ると、悪ぃって言って教室を出て行った。
 
ヨースケと竹内さんが付き合ってるのは夏休みが明けてすぐ知った。
竹内さんかわいくて有名だから、噂が一気に広まったみたい。
知ったとき、ヨースケも男の子だなって思ったよ。
みぃ、よく鈍感って言われるけど、知った以上、最大の配慮はできるんだから。
感謝してよね、ヨースケ。
 
秋の夕暮れってきれいだなぁ。
一人で帰る帰り道。高台になってる道を歩く。
 
こんな日は、川原に行こう!
 
道を右に逸れて、誰も入らない林の中へずんずん入る。
木々の間を通り抜けて、たどり着いた川原。
みぃの、みぃだけの世界。
 
少し枯れて茶色くなった原っぱにごろんと仰向けになる。
みぃのずーっと遠くで広がる空は、綺麗なオレンジ色に染まっていた。
 
ここにある空も、川も、草達も、
みぃの大事なお友達。
 
みぃが傷ついてるとき、悩んでいるとき、
どんな時だって、励ましてくれる。
 
人はいつ心変わりするか分からない。
忍ちゃんは違うよ。いつも正しいことだけ言ってくれるもん。
でも、皆が忍ちゃんみたいな人じゃないから。
 
好きなときだけいい顔して、嫌になったら突き放して。
信じろっていうのが無理な話だよ。
 
みぃに、人を信じることなんて、もうできないよ・・・。
 
傷の痛みは未だ消えない。
 
 
そっと目を閉じて、風の声、草木の声、川の声だけを聞いていた。
 
 
 
 
次の日、放課後の委員会の集まりの時に渡辺は来た。
顔は火照って赤くなってて、花の模様の入ったマスクを付けていた。
休めばいいのに、人数の少ない美化委員に気ぃ使って来たんだと。
なんつーか、バカとしか言えねぇよ。
 
「おいチビ。風邪うつすんじゃねぇぞ。」
いつもなら言い返してくるのに、今日は鼻ズビズビいわせて苦しんでる。
「ったく。んな辛いなら来んなよ。」
「だってぇー・・・ゴホッ。」
今にも泣きそうな目でこっちを見て何かを訴えてた。
これだからバカだっていうんだよ。
「・・・めんどくせぇな。俺のチャリ乗っけてやるから。帰れ。」
他の奴らに仕事を任せて、駐輪場へ向かった。
 
「・・・いいよぉ。一人で帰れる・・・。」
よたよたしながらも、一応遠慮してる。
こんなんで1人で帰れると思って言ってんのか、こいつは。
「こっちだって乗せたくて乗せてんじゃねぇよ。」
 
そう言って、左の手首を掴んで乗るように促そうとしたら、
 
「やっ!」
 
と、手を振り払われた。
 
「は?」
「あ、ごめ・・・。何でもない・・・。」
「あそ。まぁいいから乗れ。」
 
その時は気にせずに、チャリの後ろに乗っけて家の近くまで送っていった。
 
気にしなかったんだから、
左手だけ黒と灰色のボーダーのアームウォーマーをしていたのにも何も思わなかった。
 
 
翌日、
今日は土曜日だってのに委員会の仕事が遅れてるとかで午後から特別登校になった。
なんかチャリで行くのもダルいから徒歩で行くか。
 
秋の昼下がりって、結構暖かいんだな。
学校へ続く高台の道をぼんやりしながら歩いてたら、
 
前方に、黄色いパーカを着た奴がちょびちょび走ってた。
絶対にあのチビだ。
 
あれ?
なんかあいつ、道それて林ん中入ってた。
風邪で更に頭おかしくなったのか?
このまま学校行って、あいつが来ないってなるのも面倒だし、
しゃぁねぇ、連れ戻すか。
 
2メートルぐらい距離を置いて付いてってみる。
あいつは後ろを見ずに、
雑木林の中へ中へ進んでく。
どこ行くんだよ?おい。
 
しばらく行くと、
木がなくなって、円状の原っぱが広がっていた。
川もちょろちょろ流れてる。
・・・なんか、別世界みたいだ。
 
一応都会って言われてる地域なんだけど、
ここは、ずっと昔から変わらずにいる、みたいな。
 
こんなとこがあったなんて知らなかった。
 
「あれ?!・・・ヨースケ?」
 
あ、感心してたら見つかっちまった。
 
「・・・お前、こんなとこで何してんだ?」
 
言ってみたものの、俺がここに居る方が不思議だよな。
そう言いたげな顔でおろおろしてるチビッコ。
 
「つ、付いてきたの?」
「委員会サボろうとしてんだと思って。連れ戻そうと。」
「そっか・・・。見られちゃったぁ。」
 
くるっと俺に背を向けて、うーん、と伸びをする。
 
「ここはみぃの特別な場所だったの。誰も来たことないんだよ?」
「へぇ。そりゃ悪かったな。」
「いいよ。ヨースケいい人だし。」
 
また適当なことを・・・。
こいつは俺のどこを見てそんなこと言ってんだか。
 
 
太陽の輝く空を仰ぐように、ひなたぼっこしてた俺達。
先に寝っころがったのは渡辺の方だ。
 
「気持ちいいでしょ?」
「体に良さそう。」
「ハハハ。おもしろい。」
 
こいつが風邪を引いた理由がなんとなく分かった。
確かにこんだけ気持ち良いと、寝過ごして日が暮れるなんてことも有り得そうだ。
 
「ここに来るとねぇ、友達に囲まれて、励まされる気がするの。」
「友達?」
「うん。ここの植物みーんなみぃの友達。ここね、春になるとかすみ草が咲くんだよ。」
「あぁ。へぇ。」
「素っ気無いなぁ。」
「そういう人間だからな。」
「知ってるけど。まぁいい人だからね。」
 
フフフと笑いながらためらいもなく言う。
 
「お前さ、俺のどこを見てそんなこと言ってんの?」
 
ちょっとキレ気味で聞いた。
俺は、特に取り柄もないし、気を遣うのも苦手だし。
そんな俺をいい人、いい人って。
親戚のババアと一緒だ。
皆口だけ。
そう言うのって、すっげぇうぜぇ。
 
「だって、ダルイって言ってるけど、こうしてみぃを追いかけてくれたりするでしょ?」
「そりゃ、後になって面倒になるし。」
「昨日だって、みぃを家まで送ってくれたよね?」
「風邪うつされたら困るし。」
「そうやって、なんか理由つけて優しくしてくれるのもいい人だからだよ。」
「・・・。」
 
「ヨースケさ、本当に嫌いな人っている?」
 
急に話がシビアになった。
でも、あいつの顔には微笑みがある。
 
嫌いな奴なんていっぱいいる。
気に入らない奴は皆嫌いだ。
でも、こいつの言ってる「本当の」って言うのが凄く深い意味な気がして、
俺は黙っていた。
 
「みぃね、すっごく嫌いな人がいるの。
でもね、本当に嫌いにはなれなくて。」
「は?意味わかんねぇよ。」
「だろうね。みぃにもよくわかんない。でもね・・・。」
 
 
その人は、最初はとっても優しくて、
「みぃちゃん、みぃちゃん。」って可愛がってくれた。
お揃いの洋服を買ってて、一緒に街へ繰り出したり。
楽しかった。笑ってばっかりだった。
 
でも、ある時急に人が変わって、
 
みぃを、貶すようになっていった。
 
キモイ。バカ。ウザイ。邪魔だ。死ね。
 
だんだん口だけじゃなくなって、
 
お揃いの服を燃やしたり、写真のみぃの顔に穴あけたり。
 
そうやって見せつけて、嘲笑ってた。
 
悲しかった。辛かった。
どうしてこんなことするの?ってずっと思ってた。
 
でね、気づいたの。
この人は、最初っから、みぃが本当に′凾「だったんだって。
 
みぃも嫌いになろうと思ったよ。
 
でも、昔を思い出すと、
またいつか、戻るんじゃないかって。
 
だってみぃは、本当に好きだったから。
 
だけど、期待しただけ無駄だった。
日に日にその人行動はエスカレートしていった。
 
それで・・・。
 
 
「・・・どうした?」
 
笑っていたはずの顔が、泣いていた。
はっとして、涙をぬぐっている。
 
「ごめん、急に。とにかく、みぃは人を信じないの。」
「え?・・・。」
「人の心は、留めておけないから。期待するだけ無駄だもん。
その点、ヨースケはダルイって言って、わざと人に期待させないようにしてるでしょ?」
「別にそんなつもりじゃねぇけど・・・。」
「そんなヨースケは、みぃにとってはすごくいい人に見えるんだ。
・・・あ、そろそろ行かないとね!話に付き合わせちゃってゴメンね!」
 
明るく振舞って、学校へ行こうと促していた。
 
 
家で考えた。
 
嫌いなのに嫌いになれない
そんな感情を、俺は持ったことがあったか。
 
もし、仮にそういう思いを秘めたとしたら、
 
それは、俺を呪い続け、心が病ませ、
いつか俺を殺すんじゃないか。
 
そんな呪縛に、あいつは囚われて生きているのか?
あんなちっちゃい体に・・・。
 
それに比べたら、俺は?
ただ格好つけて、ダルイふりして。
 
そんな態度を、あいつはいい人と言う。
 
そんなの、許されねぇだろ。
 
 
休みが明けると、教室はざわついていた。
 
寄ってきた恭平から、驚きの真実を告げられる。
 
 
「渡辺、北海道に引っ越したんだってよ。」
 
 
昨日の今日で・・・かよ。
人が家でいろいろ考えてる間に。
ズリぃ。
 
「んで、今日それ知ったせいか、いろんなことが溢れ出てよ・・・。」
 
困惑した顔をしながら、全貌を話してくれた恭平。
 
俺はそれを聞いて、学校を飛び出した。
 
 
あいつの母親は義理の母で、
小学校の頃にあいつの父親と再婚。
小学校のころは、仲がいい家族で有名だったらしい。
 
だけど、中2の時に父親が病死。
 
それと同時に母親からの虐待が始まったそうだ。
 
あいつの左手首には、
母親に煙草を押し当てられてできた根性焼きの傷があるらしい。
 
それらの傷を隠すように、制服にプラス何かを着るようになった。
 
 
なんで今俺は走ってんだか、
自分でもわかんねぇ。
 
こんな面倒なこと、いつもなら見ないふりしてるのに。
 
・・・わけわかんねぇ。
 
 
無意識の内に、俺はこないだの川原に来ていた。
 
案の定、あいつは原っぱの中央に立っていた。
 
「ヨースケ?!」
またびっくりして俺を見る。
「お前・・・北海道って・・・。」
 
息を切らす俺に近寄る。
その表情は申し訳ないといった感じで、
目を合わそうとはしなかった。
 
「ごめんね。何にも言わないで。」
「ごめんて・・・お前
「学校で聞いたでしょ?みぃのいろんなこと。あれ、全部本当だから。」
 
そう言って、左手だけに着けている白いアームウォーマーを外した。
 
そこには、痛々しい火傷の跡。
 
「・・・この前の話の嫌いな人って、義母のこと?」
「うん・・・。」
黙ってアームウォーマーを着けなおした。
 
「お義母さん・・・、今月の初めぐらいにどっか行って戻ってこなくて。
見かねた北海道の親戚が、みぃを引き取ってくれることになって。」
「・・・そう・・・。」
「・・・ヨースケにはいっぱい迷惑かけてごめんね。もう会うこともないから・・・。」
 
そう言うあいつは寂しげに笑っていた。
 
それが、なんか居た堪れなくって、
思わず、抱き寄せた。
 
「・・・離して!」
「・・・。」
「ねぇ、ちょっ、ヨースケらしくないよ?いつもみたいにめんどくさいって言っ
「黙れ。うぜぇんだよ。お前。」
じたばたするこいつをしっかり抱きしめた。
 
腕の力を緩めると、
あいつは俺を突き飛ばして走っていった。
 
涙を流しながら・・・。
 
 
 
笑ってお別れしたかった。
 
どうして?
ヨースケ、何でみぃを抱きしめたの?
彼女いるのに・・・。
急にキャラ変えないでよ・・・。
 
みぃに・・・期待させないでよ・・・。
 
みぃは、もう人を信じないんだから・・・。
 
じゃぁなんで泣いたの?
 
みぃの心がみぃに問いかける。
 
泣いた理由・・・。
 
それは・・・。
 
離れるのが、悲しかった?
 
それは・・・。
 
 
・・・どうしよう。
 
みぃ、寂しいんだ。
ヨースケと離れるのが、悲しいんだ・・・。
 
みぃ、バカだね。
なんで、こうならなきゃ気づかないんだろ・・・
 
 
愛しいよ。ヨースケ・・・。
 
 
 
 
あいつが北海道に行って、4ヶ月が経った。
学校には今やもう、あいつが居た面影はない。
まるで幻だったかのように、元々居なかったかのように。
 
俺達が出会った41番のロッカーも、冬休み明けにはなくなっていた。
 
11月頃、他クラスの忍って女子に、
お前からの伝言をもらった。
 
「あの場所はあんたに譲るって。」
それだけ言葉で聞いた。
残りは、直接あたしの口から言えないから、と
代わりに白い紙を1枚くれた。
 
 
 
 
辛いことがあったら、
 あの場所から空を見てみて。
 きっと元気になれる。
 
 青空は、皆に平等だから。
 
 
 
 
竹内とはその後別れた。
俺がフッたんだけど。
3日後、竹内には新しい彼氏がいた。
 
笑っちまうよな。
 
「川原くん、最近変わったね。」
「は?」
「なんか、積極的になった気がする。」
 
最近そう言われるようになった。
 
あの言葉を聞いたら、
自分のしっかりしねぇとって思うようになって。
 
煙草もやめた。
髪も黒くした。
 
そんな俺を見て、恭平も察したのか、
悪い誘いをしなくなった。
やっぱり実はいい奴なんだよ。恭平は。
 
卒業後の進路は、就職することにした。
大手花屋のチェーン店。
 
お前とか関係なく、
なんとなく、植物に関わる仕事したいなって思ったから。
 
独学で植物をもっと知って、植物館でもやろうかなんて思ったり。
 
こんなに、自分の将来考えるようになったのも、
お前のおかげかもな。
 
 
3月、
いよいよ高校も卒業だ。
 
恭平は、悪いことばっかしてたくせに大学に合格。
しかも、2年後20歳になったら、姫村と結婚するらしい。
人生バラ色だ、と、おもいっきり自慢されまくった。
 
俺のこれからの人生は、まだ安定するかとも言えねぇし、
バラ色かもわかんねぇけど、
 
いつか、お前にふさわしい、俺の認めるいい人≠ノなってやろうと思う。
お前に、本当に好きだと言ってもらえるように・・・。
 
ほんの少しの間しか行動を共にしなかったのに、
俺の中のお前は何故か大きいんだよな。
 
 
一緒にいないと不安、とか別に感じない。
むしろ逆に、
離れていても大丈夫だ、って思わせてくれる。
 
そんなお前に、
俺は知らぬ間に惹かれていたのかもしれない。
 
 
無事卒業証書をもらい、
HRも終わり、
後は、ロッカーを整理して帰るだけだ。
 
*16と書かれたロッカーを開ける。
 
すると、そこには、
 
白い花束がそっと置いてあった。
 
 
花の名前は知らない。
けど、直感で分かった。
 
これは、かすみ草だ。
 
 
足が勝手に走り出す。
あの場所へ。
 
 
 
 
最後にあの場所へ行ってから、
俺はあそこへ1度も訪れていない。
汚れて、淀んでいたあの頃の自分。
そんな俺に、行ける資格がないと思ったから。
 
久しぶりに足を踏み入れる。
あの時と比べて、林の木が青々しい。
 
辿り着いたそこには、
背中の途中までの髪に、真っ白なパーカと長めのスカートに身を包んだ
あいつの姿があった。
 
「久しぶり。ヨースケ。」
元気だった?という質問も聞かず、俺は駆け寄って抱きしめた。
 
そして、
会わなかった期間を埋めるような、長い長いキスを交わす。
 
 
 
「会いたかったよ・・・。ヨースケ。」
「・・・俺もだよ。かすみ。」
 
キスは2回目だけど、
初めて名前で呼んでくれたね。
 
すっごく嬉しい。
 
 
 
「みぃね、言いたい事があるの。」
 
多分、その言葉は俺が言いたい事と同じだ。
 
 
すぅっと息を吸って、合わせるように呟く。
 
 
「「大好きだ。」よ。」
 
 
 
 
2人で手を繋いで、草の上に寝転ぶ。
 
なんか夢見たいだよ。
 
みぃの悲惨な過去を知っても、長い間離れていても、
こうして愛してくれる人が隣にいるなんて。
 
生きてて良かった、って、心底思う。
 
ありがとう、ヨースケ。
 
 
 
「みぃね、4が嫌いなの。」
「あ?・・・あぁ。」
「だから、41番のロッカー見る度、
いろんなことに束縛されてる証みたいで苦しかった・・・。
でも、そこでヨースケに会ったんだよね。」
クスクスと思い出し笑いしている。
「お前、本当にバカだな。」
「へ?」
 
「4て言うのは、幸せの4でもあるだろ?
だから、41ってのは、幸せ1番≠ト意味なんだよ。」
 
それを聞いて、また笑い出した。
俺でもバカな解釈だってことぐらい分かる。
でも、お前が笑ってくれるなら、それでいい。
 
幸せに笑っていてくれるなら、それでいい。
 
 
 
青い空の下。
 
太陽が笑ってる。
 
2人への、永遠の幸せを願って・・・。
 
 
 
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